弁護士の吉田です。
今回は,マンション管理組合を巡る最近の裁判例のなかで,注目すべき一例をご紹介いたします。
1 はじめに
分譲マンションを所有し,居住されている方であれば,管理組合の理事となる機会も少なくないと思います。今年は,自分に理事の当番が回ってきた,という声もよく聞かれるところです。
ですが,理事に就任するとはいかなる事なのか,いかなる責任が生じうるのか,については意識されることは多くありません。
そこで,マンション管理組合の理事が,裁判において責任(監督責任)を問われた事件を題材にして,マンション管理組合の理事の責任などについて考えてみたいと思います。
2 事案の概要
とあるマンション管理組合Xにおいて,Xの預金口座や通帳などを管理していた会計担当理事Aが,長年にわたりマンション管理費等を着服し横領を繰り返していたことが発覚したため,まず,Xが,Aに対して損害賠償請求を起こし,認容されました(別事件)。
さらに,Xは,Aが横領を続けていた当時の理事長Y1,会計監査役員Y2及び副理事長Y3に対して,横領に気づき,防止をすることが出来なかった責任があるとして,監督義務違反を理由とする損害賠償を請求した,という事件が今回の事件です。
Y1ないしY3の理事は,皆,普段は会社等に勤めており,理事としての主な仕事といえば年一回の総会の運営, Aの作成する会計報告のチェックおよび前年度の会計報告といったものでした。しかも,謝礼額はそれぞれ年額5000円から6万円程度と,定額なものでした。
そして,横領を繰り返していたAは,横領が発覚しないように,通帳をY2やY1などに見せず,代わりに,自分で残高証明書(銀行名義のもの)を偽造し,それを見せつつ内容虚偽の会計報告書と残高を合わせ横領の発覚を免れるなど,巧妙な手口を用いていました。
3 裁判所の判断
このような事実関係のもとで,裁判所は,Y1及びY2に対する請求を認め(ただし,全額ではありません),Y3に対する請求は認めませんでした。
4 ポイント
そこで,今回の,裁判所の判断のポイントを考えてみます。
それは,①マンション管理規約上,各理事のそれぞれの立場として,本来,どのような義務があるのか(理事長であれば,会計報告をすべき立場として,会計に関して最終的な責任を負う者である,とか,会計監査役員であれば,会計帳簿におかしな点がないかどうかをチェックすべき立場である,など),②実際に行っていた仕事内容はどのようなものか(会計報告書のチェックに当たり,何をしていたか,など)の二点であると考えます。
具体的にいえば,会計監査役員Y2としては,②実際,Aから会計報告書と,(A偽造の)残高証明書を見せられていたけれども,Xの通帳は見せられていなかったところ,通帳(通帳には,Aが横領して減額された預金額が記載されている)も見せるように要求しさえすれば,横領に気づくことができた。また,理事長Y1としては,①本来(規約上),前年度の会計報告は理事長の職務なのであるから,Aによる会計報告をチェックすべき立場にあった。ということが,Y1,Y2の責任が認められた主な理由です。
他方,副理事長Y3は,①規約上も,②事実上も,職務として会計にまつわる職務を行っていなかったのであるから,責任を負わない,として責任を否定しています。
5 責任を追及されないために
以上のことを踏まえ,マンション管理組合の理事に就任した際,自らが責任を追及されないように対策するとすれば,以下の3点が挙げられると思われます。
① 理事になる以上,職務上の義務を負い,義務に違反した場合は,責任を問われることがあり得る,という事を自覚する(名目上だけだから,といわれても,可能性はゼロではありません)。
② 理事の職務内容は,マンション管理規約に記載があるので,マンション管理規約を確認してみる(特に,自分が理事に就任する場合は慎重に)。
③ 日々の理事としての職務において,少しでも,「おかしいな・変だな」と思う事があれば,マンション管理組合や,同管理組合の顧問弁護士等に相談してみる。
6 おわりに
普段あまり意識されないことですが,マンション管理組合理事になるということは,時に責任を伴います。会社の役員の場合と同様に,マンション管理組合との間に,善管注意義務という法律上の義務が生じるためです。
以上,裁判例の簡単なご紹介でした。
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