国と沖縄県が米軍普天間基地の辺野古への移設をめぐって裁判をしています。
県が国を訴えるのではなく、国が県を訴えているわけで、沖縄県が何と言おうと辺野古移設を実行しようという国の強硬姿勢が感じられます。
表向きの理由は、普天間基地周辺住民の危険を一刻も早く取り除きたいということでしょうが、実情はそう単純ではなく、沖縄全体の問題、沖縄と本土との関係性の問題というふうに考えなければならないと思います。
明治政府の沖縄処分、太平洋戦争での本土防衛のための沖縄県民の犠牲、敗戦後の長期にわたる米国支配、復帰後も銃剣とブルドーザーで土地を強制接収され、日本国土のうち0.6パーセントにすぎない沖縄に、米軍基地の73.8パーセントが存在している事実は、沖縄がこれまでに日本という国からひどい仕打ちを受けてきたことの証といえるでしょう。特に沖縄戦では、約10万人に及ぶ沖縄県民の尊い生命が犠牲になっています。そのような沖縄を相手に国が米軍基地問題で訴訟を起こすということ、それ自体にこれまでの沖縄をめぐる歴史についての想像力の欠如を感じざるを得ません。
訴訟の前に、国と県との間で一応の話し合いが行われました。その1つに、翁長知事が総理官邸に赴き、直接安倍総理大臣と面談する機会がありました。その時の様子はテレビニュースで流れましたが、これを見て次のように感じました。
設定されたこの面談は、安倍総理が政府の考えを沖縄県に理解してもらうため、翁長知事を招いたものでしょう。一方で、翁長知事はこの招きに応じて訪問したわけです。
従って、安倍総理は招待者、翁長知事はお客様ですね。つまり、安倍総理がホストで、翁長知事がゲストということになります。
一般に、面談の場では、ホストが先に部屋に入ってゲストを迎え入れる態勢を整え、その後にゲストが部屋に入る。そんなものでしょう。
ところが、安倍、翁長会談では、翁長知事が先に入り、関係者がすべて揃ったところで事務方がその旨の連絡を入れたのでしょう、その後に安部総理が悠々と入室してきました。これって少し変ですよね。
地位の高い人は偉いから、地位の低い人が高い人を迎える準備が整った時点で、部屋に入って来る、その際、地位の低い人は起立して、高い人を迎えるという発想そのもので、日本の権力意識や権力関係の構図がそのまま表されていると感じました。
特にこの問題では、前に述べましたようなこれまでの沖縄の歴史や本土の犠牲になってきた沖縄の人達の苦しみを考えると、違和感を強く感じました。
辺野古移設は、普天間基地の危険性の除去にはなっても、沖縄の基地負担の軽減に何らならないのですから、沖縄の人達にこれを承認してもらうためには、総理には真摯な態度が求められるわけで、関係者が全員揃った後に悠々と入ってくるのではなく、先に入室してゲストを迎えるというホストの役に徹するべきではなかったかと思います。
これと同じようなことは、我々の業界にもあります。
民事裁判は、第1回口頭弁論、証人・当事者本人の尋問、最終の口頭弁論は法廷で行われますが、それ以外の事実関係や法的見解を示すための双方の主張の展開や証拠書類の提出のための弁論準備手続は法廷ではなく、会議室のような弁論準備室、あるいはラウンド法廷と呼ばれる部屋で行われます。
その部屋に担当裁判官、原告代理人弁護士、被告代理人弁護士が集い、意見の交換や諸手続きを行うわけです。
このときの裁判官が部屋に入って来るタイミングが問題です。原、被告各代理人が揃うと、書記官がその旨を裁判官室にいる裁判官に伝えます。そして、その後に裁判官がその部屋に入って来ます。その際、原、被告各代理人が起立し、挨拶をいたします。そして、その場での手続が終わった後は、裁判官は一番先に部屋を出ていきます。これも何かおかしいでしょう。
この弁論準備が行われる部屋は、裁判所の中の一室です。裁判官にとっては、この部屋はマイコート(自分の法廷)ということになります。従って、この部屋のホストは担当裁判官ということになるでしょう。そして、我々代理人弁護士は、事務所から裁判所に向い、この部屋に入るわけですからゲストです。又、裁判というのは、当事者にとって権利主張の場であるとともに、現に起こっている紛争を解決する場でもあり、解決を目指して、立場こそ違いますが裁判官も弁護士も邁進するわけですから、序列などないはずです。なのに、前述のような入室の際の慣例があるのはどういうことでしょうか。裁判官は国家機関として判決を下す権限を持っているから偉いのでしょうか。
このような所にも、日本の権力意識や権力関係の構図を見る思いがいたします。
これからの日本という国のあり方、日本人の意識構造を考えるとき、このような問題点はきちんとおさえておかなければならないように思います。
なお、心ある裁判官のためにあえて述べておきますが、弁論準備室に先に入って、双方代理人弁護士を迎え、手続が終わった後は弁護士を見送って最後に部屋を出る裁判官もいます。
しかし、このような裁判官は極めて少ない、と言わざるを得ないのが現状です。
|