まずは映画のお話。
最近、「FOUJITA」という映画が公開されました。
藤田嗣治の生涯を描いた映画です。オダギリジョーが主演していました。「FOUJITA」は、「藤田」のフランス語表記のようです。
オダギリジョーは演技が上手いですね。色々な役柄をこなせるのがすごい。「血と骨」の荒くれ者の役、「舟を編む」のちょっと軽い役、「ゆれる」の何とも不思議なキャラクターの役、そしてテレビドラマですが、「八重の桜」の端正な新島襄役。
今回の藤田嗣治の役は、風貌もそっくりにメイクしています。
監督は、これまで島尾敏雄の私小説を映画化した「死の棘」(この作品はカンヌ映画祭でパルムドール賞をとっています。)などを撮っている小栗康平です。
小栗監督の作品には、宮本輝が芥川賞を取った「泥の河」を映画化したものがあります。
藤田嗣治についての最近のもう1つのエピソードは、「作戦記録画」という絵14点が東京の国立近代美術館で公開されたことでした。藤田嗣治の世界といえば、乳白色の下地に精緻な筆で日本画風に描いた独特な絵が有名ですが、「作戦記録画」は、兵士の戦意を高揚させるために勇ましい戦闘の様子を描き、国民に示すものです。藤田嗣治だけでなく、横山大観や小磯良平など多くの画家がこれに動員されました。それらの作品は敗戦後、GHQによって接収され、アメリカに持ち去られましたが、藤田嗣治の14点の作品は1970年から国立近代美術館に無期限貸与されているもので、今般公開となったものです。
藤田のこれらの作品は、「作戦記録画」ですから、基本的には日本軍の勇壮さを描いていますが、絵をよくみると、兵士の恐怖の表情、残虐な姿、悲惨な戦場が描かれています。
特にその凄さが出ているのは、「アッツ島玉砕」、「血戦ガダルカナル」、「○○部隊の死闘―ニューギニア戦線」、「サイパン島同胞臣節を全うす」の各作品です。アッツ島での玉砕は、日本軍最初の全滅で玉砕という言葉は、このとき初めて使われたそうです。そして、「サイパン島同胞臣節を全うす」では、崖から海に飛び込む女性が描かれています。当時の軍部は戦意高揚絵画と評価したのでしょうが、私は反戦絵画と感じました。いずれにしても藤田嗣治は戦後日本を去り、フランスの国籍を取得しましたが、その背景にはこのような絵を描いたことへの後悔があったのかもしれません。
芸術家の戦争協力は、画家だけではありませんでした。勇ましい音楽は、戦意高揚に役に立ちますから、音楽家も協力させられます。作曲家の信時潔もその1人で、「海ゆかば」という曲が代表的なものでしょう。
山田耕筰も戦争に協力したのではないかと言われています。因みに、ドイツではヒットラーがワーグナーの音楽をドイツ民族の優位性を示すものとして利用したと言われています。
文学界では、桐野夏生の小説「ナニカアル」(この作品は、林芙美子の漢口、ジャワ、ボルネオ従軍のことを中心に書いています。)によると、有名なところでは菊池寛、井伏鱒二、海音寺潮五郎、林芙美子、宇野千代、佐多稲子、水木洋子らが戦地に赴き、兵士の勇ましい活躍などの従軍記を書いています。又、プロレタリア文学者で共産党に入党していたこともある佐多稲子は、激戦区に命がけで取材に行かされたとも書かれています。
しかし、これらの作家の書きぶりは様々で、なかにはあまり戦意高揚に積極的に協力しなかった作家もいたようです。
林芙美子は「軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府おかかえ小説家」と言われるほどに勇ましい従軍記を書きましたが、後に多くの若者を戦場に駆り立て、命を失わせたことを後悔し、戦後は庶民を主人公にした、日本人の悲しみともいえるような何とも物憂い小説を書いています。
これらのことは、井上ひさしの戯曲「太鼓たたいて笛ふいて」で描かれています。因みに、この演劇で林芙美子を演じたのは大竹しのぶ。とても好演でした。
林芙美子の戦後の作品で代表的なものは、「浮雲」、「めし」で、いずれも成瀬巳喜男監督により映画化されています。「浮雲」の主演女優は高峰秀子、「めし」は原節子で、映画「浮雲」の脚本を書いたのは水木洋子です。
戦争中は芸術家も一生後悔するようなつらい経験をしたようですね。
そのせいでしょうか、最近では多くの芸術家が非戦、反戦を唱え、安保法制に反対する行動を起こしています。
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