自民党は言うまでもなく政党、英語で言うとポリティカル・パーティですね。ところで政党の定義とは何でしょうか。政党とは共通の政治意識を持つ者によって組織する団体と言われています。もう少し具体的に言いますと政治の場における政策や主張に共通点のある者同士が集まり、議論などを経て意見の集約、統一をはかり政策を決定するもの、そしてその実現に向けて活動をし、政権を担ったり、議会において立法に参画するものです。決して組織として利益を求めたり、構成員たる党員個人の私利私欲実現をするための団体ではありません。
政党は国民に対して政策を示したり政府に対しそれを実行するよう求めたりしますが、同じ政策を持つ党員のなかから、優秀と思われる候補者を選抜して選挙に出馬させ、当選した者にそれを担わせるのです。ですから当選した議員は政党のなかではリーダー的存在ということになるでしょうし、選挙で勝利した政党は政権を担当することになります。
ここで大切なことは共通の政策を持つ者といっても意見が全く同じということにはなりませんから党員内で議論を闘わせ、よりよい政策へと高めていかなければならないと言うことです。政党も組織ですから組織のルールを定め、代表者や役員を決定します。又、各党員に役割を持たせたりしますが、だからと言って一定の地位を与えられた者が偉いわけでも、その人が言うことに無条件に従わなければならないものではありません。
一方、株式会社は利潤追求をその目的としています。会社にはそのオーナーたる株主がおり、会社の経営にあたる役員は株主から経営をまかされていますから、株主に多くの利益を与えるよう、株主に損失が発生しないよう企業倫理やコンプライアンスの許す範囲内で徹底的に利潤を追求し、損失発生防止に努めます。そしてその目的達成のため従業員を雇い仕事をさせるわけです。
従って経営者と従業員は上位下達、トップダウンの関係にあり、両者間で対等な議論がされることは原則としてありません。
このように政党と会社は明らかに目的や組織としてのあり方が異なるのです。
自由民主党は言うまでもなく政党です。
しかしこの自由民主党の最近の動きを見ているとどうもおかしい、政党というよりも会社に近い感じがします。
その1つが政策について議員同士による対等な立場での議論がほとんどなされなくなったと感じることです。昔はいい意味での活発な派閥活動があって派閥内での議論、それを集約した領袖同士による意見の応酬があり、議論を深化させていたのですが、今ではほとんどそれが見られません。現在及び将来の実力者を見極め、それに追従することが派閥及びその一員にとって利益になるとの考えに基づいて嗅覚を働かせることに躍起になっているような気がします。すなわち派閥は大臣ポストを取るための利益集団となってしまっています。
又、幹部による議員へのしめつけも厳しく口封じとも言えるようなメディア出演の制限は目にあまります。又、議員もそれに従って出演をとりやめるわけで、これもどうかと思います。そして、たががゆるんだような議員の失言や不祥事に対して、その原因を探ったり、これに学習したりするのではなく、「一強であることにあぐらをかくな」とか「油断をしてはいけない」、「脇をかためろ」などと言う有様です。このような対応は上意下達というしかなく、およそ政党の本来の役割をなくしてしまっているというほかありません。政党にはボトムアップで議論を深めていくという態度も重要ですがそれがほとんどありません。このような政党の有り様は株式会社と何ら変わらなくなったと言えると思います。会社の場合は労働組合があります。会社の経営者の姿勢が間違っていて、社員に不適切な指示をした場合、労働組合が労使交渉によってそれを正すことがあります。この労働組合の活動は会社の健全化に大きな役割をはたしています。又、会社のメインバンクは会社の誤った運営を改善させる機能を有しています。しかし自民党にはこういうものもありません。
このように株式会社化した自民党が今後も政権を担当していくことは危なかしいことこのうえもないのですが、国民の支持率はかなり高いところにあります。
なぜでしょうか。
思想家の内田樹氏は日本の大多数の国民はサラリーマンであるから、トップダウンに慣れている。従って多くの国民は自民党の現在の状況に違和感を抱かない、そこが問題であると言っています。まさにそのとおりでしょう。これに加えて日本人は「個」意識が低すぎる、長い物に巻かれる方が楽でいいという意識が強く、このこともあまり違和感を抱かない理由かもしれません。
議会制民主主義は政党や議員が本来はたすべき役割をはたしてこそ本来の目的を達することができるものです。自民党にはそのことをあらためて考えてほしいものです。
野党にも国民から支持されない多くの問題点があります。国民の幸福のため、国が近代的な民主国家であることを世界に示すためにも政党はその役割をはたしてもらいたいものです。
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