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2017/06/06 | 弁護士松坂徹也のコラム(21)「政権奪還」 |
政権奪還
「政権奪還」、これは安倍総理がよく使う言葉です。 特に、国会での民進党議員からの質問に対して使われます。例えば、以前の民主党政権時代より経済はぐっと良くなっているなどと言うときに、「我々は民主党から政権奪還して以来・・・」と言うわけです。 政権とは何でしょうか。権利でしょうか。権利であるとすれば、その対象は何でしょうか。奪ったり奪われたりするものでしょうか。そして、国民はその中でどのような位置付けになるのでしょうか。 日本国憲法のもとでは、主権者は国民です。その旨は日本国憲法前文に宣言されています。この主権の意義について、この前文では、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると明記されています。 国民が国政についての最高の決定権を持つということで、前文では国政は国民の厳粛な信託によるものであるとも書かれています。(因みに、明治憲法(大日本帝国憲法)下では、主権者は天皇です。第1条に「大日本帝国ハ万世一系の天皇之ヲ統治ス」と規定されています。そして、国民はといえば、日本臣民とされていました。) そうすると、政治の主役はだれなのか、言うまでもありませんね。それは国民です。そして政権を担う人は、国民からそれを任された人達で、国民に対しては、適正な政治を行うべき義務があるということになります。 ですから、政治を担う人は国民に対し義務を負うものであって、何の権利も持っていません。そもそも、政権という言葉そのものがおかしいのですが、仮にそのような地位に就くことを政権を担うと言ったとしても、その地位は奪ったり奪われたりするものではありません。何と言っても、国民が主役なのですから。政治家は日本国憲法をしっかり勉強すべきですし、国民から厳粛な信託を受けていることを自覚し、身を引き締めて謙虚に行動してほしいと思います。 最近、閣僚等の発言に、常軌を逸したものが多々みられますが、これはもはや口先の失言とは異質なもので、政治家の資質にかかわる根本的な問題があると思います。 先ごろ、ある改憲団体の大会で、安倍総理は自民党に憲法改正を担う責任があるというようなことを述べましたが、そのとき自民党のことを「圧倒的第1党」と言いました。よくも「圧倒的第1党」と、不遜な言葉を使いますね。だれがこの言葉を考えたのでしょうか。安倍総理自身でしょうか。 この言葉には、謙虚さのかけらもないわけで、聞いたとき、耳を疑うとともにぞっとする感情を抱きました。 安倍総理が放つ言葉には、他にも特異なものが沢山あります。 「一億総活躍社会」、「女性が輝く社会」(どちらも言葉が躍りすぎです。)、「積極的平和主義」(平和の希求手段に積極も消極もないはずです。)、「福島の放射能は完全にコントロールされています。」(これはウソです。)、最近のものでは「印象操作」(政治の場では使われるべきではない意味不明の情緒的な言葉)、宣伝コピーのような言葉ですね。これらの言葉には、心が全くこもっていませんし、事実に反するものもありますが、一体だれがこのような言葉を使うことを決めたのでしょうか。おかかえコピーライターとも言うべき言葉扱いの名人がいて、これらの言葉を作ったのではないでしょうか。また、安倍総理は大方の国民が喜びそうな受け狙いとも思えるパフォーマンスをよくしますが、これもそう仕向けるブレーンがいるのでしょう。 最近、島田雅彦作の小説「虚人の星」を読みました。政治風刺的・パロディ的な小説です。主な登場人物は、総理大臣と官房長官、それに中国関係のスパイです。総理は、独裁的な活動をしますが、実質的にそれを取り仕切っているのは官房長官です。現在の日本に似ている感じがしますね。しかし、この小説の面白いところは、最後に総理が官房長官を裏切り、これまでと態度をガラリと変えるところでした・・・。 明治憲法の話をしましたから、それに関連して「教育勅語」の話をします。「勅」という言葉、これはだれが発するのか、それは天皇です。「勅令」、「勅諚」は、天皇の命令、「勅旨」は天皇の意思、「勅使」は天皇が派遣する使者、「勅答」は天皇が臣下に答えることです。 このことから、すべてが分かりますね。「教育勅語」は天皇が国民に示す教育に関する意見表示の言葉です。そして、そこでは国民ではなく臣民という用語が使われ、臣民の皇室国家に対する責任のようなものが示されています。 この「教育勅語」は、国民主権を否定していますから、日本国憲法とは全く相容れません。 それなのに、最近「教育勅語」のなかでも秀でていると思えるところは、今後の教育の場でも生かされるべきとの意見を述べる閣僚や役人がいますが、とんでもない意見です。 本質を全く論じることなく、表面に現れた部分のみを上手くつまみ食いのようにして取り入れるなんて、あまりにも浅はかで許されるものではありません。 日本という国は最近、政治が劣化し、おかしくなっています。 日本はどこに行こうとしているのでしょうか。 |