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2017/07/14 | 弁護士松坂徹也のコラム(24)「組曲虐殺」 |
組曲虐殺 前々回、こまつ座の演劇「私はだれでしょう」のことを書きました。 今回はそれに続いて数年前に観劇した「組曲虐殺」を書きます。この戯曲は井上ひさしの最後の作品、遺作ということになります。この演劇の主人公は小林多喜二で、治安維持法違反で逮捕され長期間拘留の後、拷問死するという悲惨なストーリーです。 究極の強行採決がされた組織犯罪処罰法にテロ等準備罪(“共謀罪”)を設ける国会審議で法務大臣があろうことか治安維持法及びその適用は適法であったと述べたとのことですからこの機会にあらためて治安維持法の適用事例を振り返ってみることにしました。 この劇の最後はあまりにも悲惨ですが井上ひさしの戯曲ですから途中は多喜二本人やまわりの人達との人間的交流を暖かく、面白く、そして深く描いていますし、唄あり、踊りありのとても楽しい音楽劇でした。(音楽劇はミュージカルとは違います。ドラマオブミュージックといって、セリフを歌わせるのではなく劇の節目節目で出演者が劇の主要テーマやその場の状況を歌うのです。作曲は世界的なジャズピアニスト小曽根真でした。) 出演者を紹介しましょう。芸達者な人たちです。 小林多喜二 井上 芳雄 妻ふじ子 神野 三鈴 多喜二の姉 高畑 淳子 多喜二を慕っている女の子 石原 さとみ 多喜二を追う警察官 山崎 一 山本 龍二 登場人物はこの6人だけですがバックでは小曽根真が歌にあわせてピアノを生演奏します。 小曽根真のピアノ演奏が素晴らしいことは言うまでもありませんが、井上 芳雄を除き歌手ではない人が歌う歌唱もなかなかのものです。高畑淳子の演技は素晴らしく、石原さとみはとても可愛かったです。神野三鈴は舞台女優ですがこの劇での演技で紀伊國屋演劇賞を受賞していますし、今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門でエキュメニカル審査員賞を受賞した河瀬直美監督の映画「光」で重要な役を演じています。井上芳雄は東京芸大声楽科出身のミュージカル俳優ですから歌唱力は飛び抜けています。因みにこの人の父親は私の中学、高校の同級生。警察官役の山崎一の三枚目の演技、ハートのある三枚目ですが抜群の出来でした。この俳優はこまつ座の常連でいつも心豊かな三枚目の役を演じています。 多喜二は治安維持法により令状もなく逮捕され長期間拘留の後、拷問されて殺されるのですから本当に許しがたいことです。殺された多喜二の遺体には明らかに拷問によるものと思われる傷が体中のいたるところにあったとのことで、29才の死でした。又妻ふじ子もひどい拷問を受け、普通に暮らしてはいけない傷害を負ったとのことです。政権や大企業を批判したためこの治安維持法によって拷問を受け、命を奪われたり人間としての尊厳を失わされたりした人はほかにもたくさんいます。 以前コラムで書いたと思いますが大杉栄と伊藤野枝のむごたらしい虐殺は治安維持法が制定される少し前の事件ですが根は同じところにあると思っています。この法律の存在によって権力批判をすることができなくなったため、日本はその後暗黒の戦争へ突入し多くの悲惨な事態を招くとともに日本人だけでなく多くの人々がその犠牲となりました。 テロ等準備罪(共謀罪)は7月11日施行されました。少し皮肉をこめて言いますと、日本の警察はとても仕事熱心です。わが県警こそが共謀罪適用の一番乗りをはたしたいと頑張るわけです。この規定が施行されることによって、又物が言えなくなるのではないか、それによって日本が再び誤った選択をするのではないかが懸念されます。権力をしっかり監視しなくてはなりません。 |