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2017/07/25 | 弁護士松坂徹也のコラム(25)「規制改革と教育」 |
規制改革と教育 加計学園問題については色々な論点がありますが、そのなかでの中心的なものは同学園が今治市に獣医学部を新設する経緯についての規制改革問題です。この問題について官邸、自民党は、政府、各省には規制があってその規制は各種の新たなプロジェクトや自由な経済活動の取組みの障害となっている、従ってそれを打ち破る必要があり、国家戦略特区はそれへの有効な対応手段であり、それは発展阻害要因となっている各種規制(これを岩盤規制というようですが、)にドリルで穴をあけることになる、文科省が獣医学部新設に消極的姿勢を示してきたのはまさに規制であり、そこを改革しなければならないと主張しています。 それに対し野党側は上記の主張それ自体は問題ないが岩盤にはだれもが入れる穴をあけなくてはならない、特定の者だけしか入れない、特定の者を入れることを想定した穴のあけ方は間違っている、しかもその特定の者とは総理の腹心の友である人の関係先(加計学園)であるからなおさら許されないと主張しています。 この議論の前提には大学の設置について国家戦略特区制度を利用することは是であるということがあり、この点については議論の当事者もメディアも問題にはしていません。 しかしはたしてそうなのでしょうか。国家戦略特区制度はアベノミクスの三本の矢の一つである成長戦略の一つでまさに経済問題です。国家戦略特区とは経済活動をもっと自由にさせて産業の国際競争力の強化をはかり国際的経済活動の拠点の形成を図るというもので、税制面でも優遇措置を講じ、加えて国や自治体がそれに経済的支援をするものです。国家戦略特区の実体は経済特区で民間投資を喚起する成長戦略そのものです。これまでの規制に合理性があるとしてもあえてそれを打ち破るという思い切った措置を講じるというもので、すぐれて産業、経済の問題です。 このような目的の戦略特区の成否は確実には予測できないでしょうから、支援のため投入された資金が無駄になるなど多少のリスクはあってもそれを上まわる大きな成果が期待できるから総合的に判断して前に進めるというものでしょう。いわゆる経済合理性の議論のようなものですね。その背景には結果として期待したものが出なくても仕方がない。その程度は折込み済みということがあるのでしょう。そういう面からすると実験的な取り組みともいえるもので失敗も想定内にあると思います。 さて、このような趣旨の国家戦略特区というものを教育にそのままあてはめていいのでしょうか。教育は将来有用な若い人材を育てるものです。そのため教育のレベルは保たれなくてはなりませんし、優秀な教員を確保するとともに、優秀な学生を集めなければなりません。又、卒業した学生が社会で活躍できる道が確実に開かれていなければなりません。 そういうわけですから大学の開設は重大な問題で失敗は絶対に許されません。経済活動への取組みの失敗は所詮お金の損失問題ですが、教育の失敗はお金にはかえられない大きな社会的損失が生じます。国の将来を担う若き人材の養成にかかわる問題ですから、実験的な要素など許されるものでは到底ありません。失敗のリスクを上まわる有益性の存在があるといった経済合理性の追究は教育問題にはあてはまらないと思います。そういう意味では国家戦略特区制度は経済問題にはなじんでも、教育にはなじまないと言えるのではないでしょうか。文科省が大学設置について慎重なのはこのことに由来するものと思われます。ですからこの慎重な対応を規制改革への抵抗勢力と言うのは間違っているような気がします。 加計学園の問題点を検討するにあたってはこのような視点も大切ではないでしょうか。 余談ですが安倍総理と加計孝太郎氏の関係は、古い話ですがロッキード事件に出てくる田中角栄氏と小佐野賢治氏との関係と共通するものがあるように感じます。前者の関係を「腹心の友」と現在言っているようですが、後者は「刎頸の友」と言っていまいた。辞書には「腹心」とは深く信頼すること、「刎頸」とは首を切られても悔いないほどの生死を供にする親しい交際とあります。田中角栄氏と小佐野賢治氏の関係の方が情緒的なつながりが強かったということでしょうか。 |