共同体を支える最も基本的な柱は何でしょうか。思想家で武闘家の内田樹氏は、原始的な組織を想定して、大筋次のように述べています。
「まず、共同体を維持していくためには、秩序が大切である。
共同体の中で争いが生じた場合、それを何らかの的確な手段を用い、合理的な内容で治めなければならない。又、各自が勝手なことをして他者に迷惑や被害を及ぼすことを防ぐ必要がある。そのためには、共同体のなかで合理的なルールを定め、ルール破りをする人にそれをやめさせたり、やめない人を懲らしめたり、迷惑を受けた人への償いをさせなければならない。それを司るのが法であり、裁きである。」
これは、今の世の中で言うと、司法ということになりますね。
「次に、共同体のなかで死に至る伝染病が発生した場合、どうしたらいいのか。放っておくと、全員がこれに感染して死亡し、共同体は滅んでしまう、だから、みんなの英知を結集して、それへの対応をしなければならない。」
これは医療ということになります。
「人間は、先祖から伝えられ、受け継がれた、生きていくための技術を持っている。
どうやって獲物を確保するかなどの狩猟技術、農作物を育てる農業技術など。これらは次の世代に伝え、受け継がれなければならない。そのためには、それを教えることが必要。」
これは教育ですね。
「人は、精神が不安になったり、悩んだり、苦しかったりするときがある。このようなとき、心を落ち着かせなければならない。その1つが祈りで、人間は、これなしには生きていけない。」
宗教の存在意義は、そこにあるのでしょう。
以上、この司法、医療、教育、宗教の4つが共同体を維持していくための基本的な柱なのだと内田樹氏は明言しています。そして、この考え方は、普遍であり、どの時代にもそのままあてはまると思います。
それでは、経済や政治はどういう位置づけになるのでしょうか。今の時代の状況を考えてみたいと思います。
世の中、お金を中心に動いていますから、お金なしには生きていけません。経済問題は大切なことです。又、国をどのように治めていくか、富のバラつきを修正し、貧しい人も生きていけるようにするためには、どうしたらよいか、国民から集めた税金をどのように使うか、国や地方のインフラをきちんと整備するにはどうしたらよいか、これらは政治の基本的な問題で、とても大切なことです。
しかし、経済や政治は、世の中がいかに複雑化、多様化したとはいえ、基本的な重要度は先ほど述べた4本の柱より後順位となるはずです。人間が生きていくうえで、人間社会の枠組みのなかではベーシックで本質的な問題ではないからです。
このような観点から、最近の世の中を見てみますと、4本の柱は軽んじられ、経済、政治が最優先、最重要化されているように思われます。
昨今、経済にとってグローバル化による効率主義が一番好ましいと言われています。しかし、この考え方は人間一人一人の生産や消費の営み、大地や海の恵みへの喜びや感謝といった面を欠落させますし、又、大資本を優先させ、格差社会を増長させるばかりです。TPP問題がその典型的な例でしょう。
また、エネルギーに目を向けますと、経済効率に基づくエネルギー確保だけが最優先され、それがもたらす災厄には目をつぶることにもなります。このような事態には大いに疑問を感じます。
一票の格差問題について裁判所が、長きに亘って何度も違憲状態にあるとの判決を出しても、無視してきた政府の態度、憲法解釈を何の根拠もなく変えてしまう態度は4本の柱の1つである司法を無力化させるもの、と言わざるを得ません。大学のうち、経済、産業に直接貢献することのない教育系学部、それのみならず人文系学部を軽視して、それへの予算を減らそうとし、これからの司法を担う司法修習生への給与支払いを中止し、医療費削減に躍起になっている態度は、4本の柱の教育、医療を軽視するものです。すべて現在の政府の態度です。
日本という国がこれからどうなっていくのか、経済優先で憲法がないがしろにされていくのではないか、しっかりとした考え方を持った若者が育たなくなるのではないかと心配するばかりです。
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