参議院議員選挙後、政界では憲法改正についての議論がはじまっています。
又、メディアでもこの問題がよく取り上げられますし、天皇の生前退位問題が論じられるなかで、憲法第1章の「天皇」の条項があらためて示されたり、「皇室典範」の改正についても言及されています。
そこで、今回は「日本国憲法」のことを考えてみたいと思います。
「日本国憲法」の条文を最近あらためて読んでみるのですが、まず感じることは、実に奥が深く、しかも表現が美しく、格調高いということです。
そのいくつかの条文をそのままではありませんが、以下に示してみます。
1.まず前文ですが、
(1)第1段で「日本国民は、国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの 子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたら す恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにす ることを決意し、ここに主権が国民にあることを宣言する。」としています。
この文は、議会制民主主義、立憲主義、自由の尊さ、平和主義、国民主権を高ら かに宣言しています。
続けて、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由 来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受す る。」となっています。政治権力は、国民からの信託に基づくもので、国民の利益 のために行使されるのであって、政権与党や権力者のためにあるのではないという ことを言っています。
最後に、「これは人類普遍の原理であり、これに反する一切の憲法、法令及び詔 勅を排除する。」としています。
憲法改正についての制約も規定しているのですね。
(2)そして、第2段では平和のことを掘り下げ、「日本国民は恒久の平和を念願し、 平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと 決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除 去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。」とし ています。これまでの反省のもと、これからは平和主義に徹し、世界平和のために 貢献することを宣言しています。
そのうえで、全世界の国民が平和のうちに生存する権利があることの確認もして います。
(3)続いて3、4段で「いづれの国も、自国のことのみに専念して他国を無視しては ならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うこ とは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信 ずる。」とし、続けて「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な 理想と目的を達成することを誓う。」としています。
前文のこれらの表現は、なんと素晴らしく、気高い文章でしょうか。
2.次は、11条です。
この条文は、基本的人権の保障を「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられ ない。この憲法が国民に保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利として 現在及び将来の国民に与えられる。」と規定して高らかに基本的人権の保障を宣言し ています。
3.続いて12条。
この条文は、自由、権利の保持義務のことを規定しているもので、「この憲法が国 民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければな らない。」としています。
国民一人一人が憲法で認められた自由、権利の尊さを大切にし、それが認められる までの苦難に思い致して、これを守ってゆかなければならないと説いているのです。
4.そして、基本的人権の本質を定めた97条。
「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努 力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に 対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」と規定されて います。
基本的人権の獲得は簡単にできたものではなく、これまでに幾多の苦難があったこ と、それを乗り越えて獲得できたこと、従って、今後は絶対に侵されてはならず、未 来永劫、権利として確保され続けなければならないことが格調高い文章で規定されて います。
5.最後に9条。
この9条は、だれでも御存知の、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認の条文です。
しかし、よく読むとそこには平和への強い願いが込められています。
戦争放棄の理由として「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希 求する。」と記され、この願いが次の戦争、武力行使の放棄、戦力の不保持、交戦権 の否認の文言に繋がっています。
この9条は、世界に例をみない条項で、この9条により我が国は今日まで国内のみ ならず世界の平和に大きな役割を果たしてきましたし、平和を希求する世界の各国々 から高い評価を受けてきました。
6.これらの憲法の各条文は、内容が素晴らしいだけでなく、日本国民一人一人の営み や生活に思いを寄せた心の通ったもので、とても感動的です。
又、日本語の奥の深さ、美しい音の響きすら感じさせます。
このような素晴らしい憲法は、先進国といわれる外国ではなかなか見つかりませ ん。
日本でこの憲法が生まれたのは、焦土と化した敗戦のなかで、ゼロからのスタート であったこと、すなわち真っ白なキャンバスに何の制約もなく、自由に描けたことに あると思います。
どの国も素晴らしい憲法を作りたいのですが、従来からあるものを変えていくこと は反対意見が多く出されるなどして、困難を極めます。
先進国のなかでは、日本国憲法のようなゼロからのスタートとなった憲法を持った 国は他にはないと思います。
私達は、かくも美しく、たおやかな日本国憲法を大切にしたいと思います。
日本国憲法制定に、GHQが関与した事実は少なからずあります。
しかし、だからといって押し付け憲法だとか、日本人の心と相入れない憲法だとか 言って、それだけを理由に改正しようというのは、余りにも短絡的だと思います。経 緯はどうであれ、良いものはいいのです。
2013年12月、天皇陛下は80歳の誕生日を迎えられた際の記者会見で、日本 国憲法に言及され、「平和と民主主義を守るべき大切なものとして、日本国憲法を作 り、それに基づきさまざまな改革を行って、今日の日本を築いた」と語られ、「その 当時の知日派の米国人の努力も忘れてはならない。」という趣旨のことを付け加えら れたということです。
又、皇后陛下もその年の御自身の誕生日に発表した書面のなかで、日本国憲法の男 女平等条項等を提案、起草した、当時22歳であったGHQ女性民政局員ベアテ・シ ロタ・ゴードンさんのことに触れ、「日本における女性の人権の尊重を新憲法に反映 させた。」と述べられているそうです。
憲法改正を言う前に、まずこの美しくたおやかな「日本国憲法」、そしてこれまで 果たしてきた平和的役割に深く敬意を表すべきだと思います。
最後に一言、憲法は行政に携わる政治権力者の権力の行使を縛るもので、権利行使 を容易にするためのものではありません。為政者にはこのことを肝に銘じていただき たいと思います。
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